ユーザーの熱量が企業を動かす、アバターファッションの未来。SPINNSバーチャル事業 宮崎さんインタビュー


インターネットが一般に普及してからおよそ30年。
自分達の気持ちを自分たち自身でさらけだせるようになった今、自分を表現するアイテムである衣服もデジタルに場所を移し、新たな価値観を創り上げています。

『変われるってムテキ!』をキャッチフレーズにバーチャルファッション事業に取り組むSPINNS(スピンズ)。最初は自社のバーチャルタレントを起用したリアル商品のPRを行っていましたが、とあるキッカケによりバーチャルのファッションの可能性に気づかされたのだそうです。

バーチャルのファッションの可能性と課題、そしてSPINNSが現在取り組んでいる新たな施策について、SPINNSバーチャル事業担当 宮崎さんと一緒に考察していきます。

■SPINNSバーチャル事業担当 宮崎さん
株式会社ヒューマンフォーラム《SPINNS事業部》所属。
現在アパレルの可能性を広めるため、アパレル×バーチャルへの取り組みや、地域に根差した古着屋×コミュティスペース『TANEMAKI』の運営を行っている。

ビジュアルプレスの新企画から始まったバーチャル事業

ーー若い世代を中心に人気のアパレルブランド、SPINNS(スピンズ)さんですが、もともとのブランドコンセプトはどのようなものを掲げているのでしょうか。

SPINNSは『Attitude Makes Style!』(主張がスタイルをつくる!)をコンセプトに、特に若者文化にフィーチャーして商品サービスを展開しています。

今までの洋服は音楽やアートがカルチャーとしての接点が近かったですが、近年ではアニメやゲームがユースカルチャーとして台頭してきました。

ですのでSPINNSもそういったアニメ・ゲームカルチャーを用いたコラボを積極的に行っています。

現在は『変われるってムテキ!』というキャッチフレーズで若者が新しいファッションやカルチャーに挑戦するキッカケになるようなプロダクトやサービスの開発・提案をしています。

紡ひなたOfficialRoom https://www.spinns.com/tsumugihinata/

ーー新しいカルチャーと言えば、SPPINSさんは2020年の5月頃から自社で『紡ひなた』というVTuberを活用してPRを行っていますよね。

そうですね。
紡ひなたが生まれた経緯としては、10代から20代前半のSPINNSの顧客ターゲットに向けたアプローチをしたくて。

それで、新しいカルチャーとしてバーチャルキャラクターであるとか、アバターというものを活用して若い子に知ってほしいなという事でデビューさせました。

そういうと固い言い方ですが、単純に面白そうっていう軽いノリで始めたのがキッカケです。

ーーその段階ではバーチャルでファッションを売ろうというコンセプトは無かったんでしょうか。

はい、アパレル業界用語で言うビジュアルプレス要因として、自社宣伝をするスタッフをバーチャルでやりましょうというところから企画が始まっています。

SPINNSの店頭で実際に販売する衣装のイメージモデルを全部バーチャルキャラクターでやるという事をトライをしてみたかったのがキッカケです。

なのでその当時はリアル商品ありきのバーチャル活動でした。

アバターで活動している人もファッションって楽しいんだ!という気づき

ーー当初紡ひなたさんはSHOWROOMでの配信に加え、YouTubeで商品の紹介や実店舗の紹介をしたりしていましたよね。

実は本当は店頭のビジョンに登場してPRしたりとかを考えていたんです。

ですがデビューした当初、2020年5月がちょうど緊急事態宣言の1発目があった時期で。
お店が全部休業になってしまったんですよ。

もう、なんてこったい、と思いました(笑)

なのでひとまずはライブ配信やSNSでの発信を主に活動していました。

ーー実店舗ベースでの活動が出来なくなって、SNSでの活動をされていたんですね。
そこからバーチャルアパレル事業に踏み入ったのはどのようなキッカケがあってのことなのでしょうか。

ターニングポイントとしては、2020年の夏にバーチャルキャラクターさんとのコラボ企画がありまして。

SPINNS×VIRTUAL ロングTシャツフェス
 https://www.spinns.com/topics/topics-10522/

アパレルで言うとTシャツの売り込み時期にシーズンビジュアルを作ったりとか、芸能人やタレントさんがよくイメージモデルとして販促ビジュアルになったりとかはよくあるんです。

これをバーチャルキャラクターでやってみましょうという話になりまして。
SPINNSの店頭で実際に販売するTシャツのイメージモデルを全部バーチャルキャラクターでやるという事をトライをしてみたのがキッカケです。

この企画では自社キャラクターである紡ひなたに加えて、4名のVTuberの方に商品を着用頂きました。

この段階での販促商品はリアルの商品だったんです。

ですが、この企画を走らせて起こったこととして、もちろんTシャツのモデルをしてくれた方がリアルの商品を買ってくれたという事もあったんですが、なによりもVTuberさんたちがモデルをしたことを喜んでくれたんですよ。

VTuberさんやライバーさんって固定衣装が基本的には多いので、初めて私服っぽい服を着てモデルをやったり、配信をしたりするのがすごく嬉しいと本人が言ってくれて。

そこで『アバターで活動している人もファッションを着替えるのって楽しいんだ』っていう気づきがありました。

SPINNSがアパレルで出来る事ってリアル商品だけじゃなく、アバター用のバーチャルファッションっていうのも需要があるんじゃないかなって事にこれをやったことで気付きました。

ーー確かに、VTuberさんの衣装はステージ衣装のような華やかなものが多くて、衣装を変える時は何かの節目の時というニュアンスが強かったですから、現実と同じような感覚でファッションを楽しめるのは新しい体験なのかもしれないですね。

そこから思い立ったらすぐ行動で、そのまま2020年の12月25日にSPINNS BOOTH店をオープン、バーチャルファッションを売るという事を始めました。

このバーチャルファッションは店頭で販売しているものをそのままバーチャルでも同時に売っているんです。

これはバーチャルファッションを楽しんで欲しいという事が1つ。もう1つはバーチャルファッションをキッカケに実際の商品に興味を持ってもらい来店してもらう、自分のアバターとお揃いの服を自分もリアルで着るということを楽しんでもらえたらいいなと思ってこれをスタートさせました。

ユーザーの自発的なイベントが熱量を高めるキッカケに

SPINNS BOOTH店 https://spinns.booth.pm/

ーーSPINNS BOOTH店の開店の反響はどうでしたか?

オープン時は盛り上がって売り上げも良かったのですが、やはりリアルの販売と販路が違うのでなかなか難しい部分もあり…。

そんな中でとある出来事が起こったんです。

ある日ふとTwitterを確認したら、一般のバーチャルユーザーさんが自身のアカウントで“SPINNSの服を着たユーザー同士で集合写真を撮る企画”というのが独自におこなわれていたんですよ。

知らないところで企画が立ち上がっていたので『あれ?なんだこれ?』と思って(笑)

この企画を行っていたのが野菜ゆうきさん(@yasai_ichini)とう方なのですが。

この方もBOOTHでバーチャルファッションを販売している方なんですけど、最終的にすごくたくさんの人が参加をしていて。むちゃくちゃみんな楽しんでくれたんです。SPINNSの企画じゃなく一般のユーザーの企画で。

このエネルギーすごいなと思って。

なのでSPINNSの方もちゃんとした企画をやらないとってことで、2021年8月に『SPINNS V MAGAZINE』というフリーペーパーのファッションスナップマガジン企画を行いました。

こちらの企画は最終的には130名もの人が参加してくれました。
ファッションを楽しんでくださいという企画だったので、SPINNSの服だけでなく、他のクリエイターさんが作ってる服も取り上げています。

余談ですが、それぞれ130人分のスナップの背景写真を撮るために、街にでて写真を撮る作業は大変でした(笑)

でもすごく好評で。クリエイターさんの紹介とかも入れて、1500部くらい擦ったんですけど1週間でなくなるくらい好評でした。

ーーバーチャルの世界とリアルの世界がフリーペーパーを介して繋がった感じで素敵な話ですね。

嬉しかったのはクリエイターさんたちに喜んでもらえたというのと、何人かに言われたのは、アパレルブランドでここまで本気でバーチャルコンテンツに取り組んでくれている会社は初めてで、ユーザーとして嬉しいと言ってくれて。
純粋にファッションって楽しいんだという事を皆さんと一緒に発信出来たことがすごく嬉しかったです。

この企画でBOOTHの売り上げも5倍以上になったので、アイテムが売れたのも良かったですね。

ーーバーチャルのファッションとリアルのファッション、両方を取り扱う中で、両者の違いについて何か感じた事はありますか?

リアルだと着ることのできない服だとか、着るのに勇気がいる服とかもアバターではチャレンジすることが出来たり。それこそ男性がレディースのファッションを楽しむとか、逆に女性がメンズファッションを楽しむことも出来る。そこがリアルとは違うアバターファッションならではの楽しみ方だなと思います。

今アバター持って過ごしている人はたくさんいるから、VRユーザーさんに喜んでもらう方が面白くていいですよね。『SPINNS V MAGAZINE』もVTuberはほとんどいなくて。

自社でも紡ひなたというバーチャルキャラクターはいるんですけど、個人で楽しんでいる方も巻き込んでSPINNSの場から発信することで、アバターファッションと言うのがあるんだという事を発信することも1つのミッションだと思っています

ーーみんなで楽しむ、みんなで盛り上げるというのは楽しいですね。
一方でそれをするには、そこにはどういうカルチャーがあって、どういう価値観で人が動いていて、どういう人がバーチャルファッションを楽しんでいるのかというところまで見えてないとなかなか足を踏み込めないと思うんです。そういった所のリサーチはどうしていらっしゃるのでしょうか。

先程も述べた通り、実はユーザーさんから企画が出てきたので乗っかったというのが大きいので、ユーザーさんのおかげではあるのですが…。

それと同時に、近年はアバターファッションであったり、アバターで遊ぶという文化の認知が加速していると思います。
特にそれが若い人や子どもにも一般に浸透したのは『あつまれどうぶつの森』の影響が強いなと思っています。

遊び込んでる人はあれで洋服を作ったり、作ったものをシェアしたりしてるじゃないですか。

なので、自社のプロジェクトを説明する時に『あつ森みたいな感じだよ』と説明するとスッと納得してくれるんですよね。『自分で物を作ったり、そこで生活したりするじゃん』って。

バーチャルファッションの課題と挑戦

ーーだんだんと認知ベースが広がってきているアバター文化ですが、現状課題に思っている点はありますか?

課題としてはスマホで遊べないという所が大きなネックですね。
メタバースファッションのクリエイトは今はまだPCメインの世界なので。
ティーンズの子はPCを持ってないので、なかなか打ち出しにくいところはあります。

ー-この課題については技術的な面もあるので、プラットフォーム側の進化であったり、通信環境の改善だったりが必要なので、一筋縄ではいかない課題ではありますよね。

ただその中でも昔よりはバーチャルファッションを楽しめる環境は整ってきているのかなと思っていて。

SPPINSさんはVRoidのテクスチャ販売をやってらっしゃいますけど、VRoidはモバイル版もあって、スマホから着せ替えが出来たり。昨年10月末にはPC版で正式版もリリースされて、かなり使いやすくなったんじゃないかと思います。

そうですね、取っつきやすさで言ってもVRoid対応衣装の販売が一番やりやすいですね。

バーチャルファッションを盛り上げるためには僕らも頑張りますが、世の中的にもアバターファッションのカルチャーは進んでいくと思うんです。

先程例に挙げた『あつ森』は確かにアバターとファッションという概念の普及には貢献していると思うんですけど、現状あれがライフスタイルではないので。

それがだんだんと、1日の時間の何時間も、自分の主がバーチャルになっていくのであれば、衣食住の衣、自分を着飾るという意味でのアパレルの役割は大きくなってくるのかなと。

ーー個を彩るファッションが充実することで、バーチャルの世界がより豊かになるといいですね。

はい、そのためにも今1つ大きな取り組みをしています。

現在VR/AR/MRコンテンツ開発のGugenkaさんとタッグを組み、バーチャルファッションを
広めていく企画をリリースする予定です。

具体的にはZOZOTOWNでSPINNSのバーチャルキャラクター、紡ひなたと初音ミクをバーチャルモデルとして出そうと画策しています。

そしてGugenkaさんが展開しているAR・VRのグッズマーケット『XMarket(エックスマーケット) 』で、リアルで購入したファッションと同じものがバーチャルで楽しめる(※1)という企画です。

ーーそれはすごいですね。
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Marketはスマホから直接VRChatにアバターをアップロードできる機能がありますから、今後バーチャルと現実のファッションでお揃いの服を着て過ごすという未来が来るのも近そうですね。

(※1)Gugenkaが提供するHoloModels(ホロモデル)にて、AR機能を使って好きな場所に3DCGで作られたフィギュアを飾れるサービス。

バーチャルファッションが仕事になる未来

ーーバーチャルファッションがどんどん広がりを見せていく事自体もワクワクしますし、やはり私たちユーザー側として見ると、企業が私たちのカルチャーに寄ってくれるっていうのはすごく嬉しいと思うんですよ。

だからユーザー側から『SPINNSさんに何か協力したい!』とか『力になりたい』って自発的に動いたり。お友達に宣伝したりとかいう動きがあるんじゃないかなと思って。

ありがとうございます。
現在取り組んでいる企画でも、普段VRを遊んでいるプレイヤーさんを含めた多くの方にSPINNSをうまく活用してもらったり、SPINNS側もそこをうまくフックアップできたらと思います。

それから、リアルなモノづくりとバーチャルファッションの物づくりって全くスキルが違うので、今後バーチャルファッション事業をさらに盛り上げていくには専門の技術者が必要になってくると思うんですよ。

そうなると、クリエイターさんに業務委託をしたり、自社でバーチャルファッションの専門チームを作ることが必要になってくると思うんです。

今は個人としてBOOTHの物販で活動されているクリエイターさんたちも、もしかしたらそれでご飯を食べれるようになったりとか、企業所属になってファッション制作に取り組んでお給料が貰えたりとかいう未来になっていったらいいなと。

ーーそれでバーチャルの経済圏が回っていけば寄り文化として発展していきそうですよね。

なのでうちは細々と毎月リリースしています(笑)

これ以外にも昨年夏に行った『SPINNS V MAGAZINE』のような、ユーザーさんと絡んだファッションイベントもやっていきたいですね。